神戸地方裁判所 昭和32年(ワ)642号 判決 1959年4月15日
原告 日本冷蔵株式会社
被告 国
訴訟代理人 今井文雄 外二名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
本件につき当裁判所が先にした昭和三二年(モ)第九二九号事件の仮差押執行の取消決定を取消す。
前項にかぎり仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、「被告が、訴外エム・シー・シー食品株式会社に対する昭和三十二年(ヨ)第二六六号仮差押決定正本に基き昭和三十二年六月十四日別紙目録記載の物件についてした仮差押の執行を許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因を次のとおり述べた。
「(一)、被告は、訴外エム・シー・シー食品株式会社に対する請求の趣旨記載の仮差押決定正本に基き、昭和三十二年六月十四日別紙目録記載の物件について仮差押をした。
(二)、しかしながら、右物件は、次のような事情によつて原告の所有に属し、かつ、その所有権をもつて被告に対抗できるものである。
(い)、所有権取得の原因が訴外会社との売買契約に基くもの
<表 省略>
(ろ)、所有権取得の原因が訴外会社との委託加工契約に基くもの
<表 省略>
三、そこで原告は、被告が右物件についてした仮差押の排除を求める。」
被告指定代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め、次のとおり答えた。
「請求原因事実中(一)項は認めるが、その余は否認する。」
証拠<省略>
理由
(一)、請求原因事実中(一)項は、当事者間に争いがない。
(二)、そこで別紙目録記載の物件が、原告の所有に属するものであるかどうか、そして所有に属するものなら、それを被告に対抗できるかどうかを判断する。
(い)、一、三及び四の物件について、
証人祝勝彦の証言、同証言により真正に成立したことを認める甲第二号証、証人片山一枝の証言及び同証言により真正に成立したことを認める甲第三号証によると、原告は、訴外エム・シー・シー食品株式会社(以下訴外会社と略称する。)と昭和三十二年二月二十二日頃ミカン罐詰三千ケースについて、同年四月二十三日頃マーマレード五百六十ケースについてそれぞれ売買契約を締結したこと、訴外会社は、右契約に基き同社の製品在庫帳中訴外会社口座から原告口座に同年二月二十四日ミカン罐詰(人甘併用)五号四打入二千六十七ケースを、ミカン罐詰(全糖)五号四打入八百五ケースを、同年四月二十四日マーマレード五号四打入五百六十ケースをそれぞれ移記しており、本件仮差押当時、右移記した物件の同帳簿上の在庫数は、右ミカン罐詰(人甘併用)は、千二十ケースであり、右ミカン罐詰(全糖)は百九十ケースであり、右マーマレードは五百六十ケースであつて、その中の一部が一、三及び四の物件であることを認めるに難くはない。
原告は、右売買契約に基き右在庫帳中訴外会社口座から原告口座に移記された物件の所有権は、その日に訴外会社から原告に移転し、かつ、引渡を受けたのであるから、その一部である一、三及び四の物件は、原告の所有であり、それをもつて被告に対抗できると主張するようであるが、当裁判所は、結論において右一、三及び四の物件の所有権は、未だ原告に移転していないと認定する。その理由は次のとおりである。
右売買契約は、一定種類の訴外会社製品の一定量を給付すべきことを内容とするものであることは、右認定事実から明らかである。従つて、右売買契約の目的物たる製品が特定されないうちは、代金支払の有無にかかわりなく、その所有権が訴外会社から原告に移転することはないわけである。
前記甲第三号証、証人祝勝彦、同村田季彦、同進藤正典の各証言によると、訴外会社は、その製品在庫帳中訴外会社口座から原告口座に右売買契約の目的物を移記する際伝票を発行していないこと、右原告口座に移記された物件について、同口座上その後第三者え販売されており、訴外会社においてそれを出庫する際、その都度伝票を発行していること(但しマーマレード五百六十ケースについては、その後出庫はない。)、右伝票は、原告口座に掲記の物件を出庫するのに、訴外会社口座に掲記の物件を訴外会社が第三者へ販売する場合に発行する伝票と一連の番号で発行されており、しかも訴外一会社に掲記の物件と原告口座に掲記の物件とが同一日に同一の出庫先である場合は、同一番号の伝票(従つて一枚と考えちれる。)が発行されておること(たとえば、右在庫帳中日冷(五号)みかん<1>欄の三月十四日出庫先鈴木の伝票番号が千二百八十六であるのに、M・C・C(二号)みかん<2>欄の同一日の同一出庫先の伝票番号は同じく千二百八十六である。)及び原告と訴外会社との間の年間取引高は、昭和三十年頃から七、八千万円にのぼり、訴外会社の製品を買受ける場合、原告は、目的物を直ちに引取る(法律上の占有移転を意味するものではないが)のではなく、原告の必要に応じ、訴外会社に出荷指図書を交付して引取るものであること(従つて、右原告口座に移記された物件について、同口座上その後第三者へ出庫した旨の記載は、訴外会社において、右出荷指図書に基きその指定された場所へ出庫したことを意味することが認められる。)が認められ、この認定事実によると、右売買契約の履行の時期及び場所は、原告が訴外会社に、右出荷指図書を交付することによつて始めて決定され(従つて、指示された場所が原告である場合は持参債務となり、第三者である場合は送付債務となる。)るのであつて、訴外会社において、右出荷指図書の交付を受け、指示された数量を指示された場所に現実に出庫した場合にのみ(送付債務の場合)、その出庫数にかぎり右売買契約の目的物が個々に特定されるものであることが認められる(従つて、訴外会社がその在庫帳中原告口座に移記するのは、原告に給付すべき同口座掲記の物件の数量を明確にするにすぎない。)。
そうすると、右売買契約のうち未だ出荷指図書の交付がなく、訴外会社において現実に出庫していない部分については、目的物の特定はなく原告に所有権が移転しないことが明らかであるから、未だ出荷指図書の交付がなく、訴外会社に在庫中の一、三及び四の物件も原告の所有に属していないと云わなければならない。
なお、前記証人祝、同村田、同片山及び進藤の各証言中右認定に反する部分があるが、これは、右売買契約に基く所有権移転の時期を正当に理解していないための供述であつて、そのままとることはできない。
(ろ)、五の物件について、
この物件について原告は、訴外会杜と昭和三十二年三月五日売買契約を締結し、その所有権を取得したと主張するのであるが、これを認めることのできる確証はない。
もつとも、前記証人祝は、原告の買掛金勘定帳に同年同月二十六日マーマレード千ケースを買付けた旨の記載があり、右物件はその一部であると供述するのであるが、前記甲第二号証によると、右の記載は、マーマレード五号四打入(右物件は五号二打入)千ケースについてのものであるから、右供述は信用できないし、又、前記証人片山は、右物件は訴外会社の製品在庫帳中日冷マーマレード<1>口座中の五百六十ケースの一部と同マーマレード、<2>口座中の六百三ケースの一部を合わせたものであると供述するのであるが、前記甲第三号証によると、右マーマレードは何れも五号四打入であり、しかも右マーマレード<2>口座のマーマレードは日冷マークのものであることが認められるのであるから(従つて、これを仮差押したとすれば五の物件の表示は、マーマレード五号四打入で、しかもその一部は日冷マーマレード五号四打入でなければならない。)、右の供述も信用できない。
(は)、六の物件について、
この物件について原告は、売買契約により昭和三十二年三月三十一日引渡を受け、その所有権を取得したと主張するのであるが、これを認めることのできる確証はない。
もつとも前記証人祝及び村田は、右物件は、原告が訴外会社に加工を委託したもので、原告において罐、砂糖、前渡金を交付しているから、その所有権は原告に属するものであると供述するのであるが、右供述は、前記甲第三号証にてらし(即ち、甲第三号証である訴外会社の製品在庫帳には、日冷ミカン罐詰二号二打入五十五ケースの記載はあるが、ミカン罐詰二号二打入五十五ケースの記載はない。)信用できないし、又、前記証人片山は、訴外会社の製品在庫帳中原告口座日冷(二号)みかん<2>欄に記載する五十五ケースが右物件であると供述するのであるが、前記甲第三号証によると、右五十五ケースはいずれも日冷マークのものであるから(従つてそれを仮差押えしたとすれば、右物件の表示は、日冷ミカン罐詰二号罐二打入でなければならない。)、右供述も信用できない。
(に)、九、十四の物件について、
前記甲第三号証、証人祝及び村田の洛証言によると、原告は、その主張の日時頃訴外会社に五号四打入及び二号二打入のミカン罐詰の加工を委託し、右各物件は、訴外会社が右委託に基き製造した製品の一部であること、右委託の際原告は訴外会社に空罐と砂糖を提供していること(従つて製品の所有権は、原始的に訴外会社に帰属すること、もつとも右祝は、その他昭和三十一年十二月二十五日に五百万円、同三十二年一月十六日に百五十万円を交付しているから、製品の所有権は原告に属するものであると供述し、又、右村田は、原告が訴外会社に委託加工する場合製品価格の六割程度前渡金を交付するものであると供述しているが、右各供述のみをもつては右金員の交付があつたことを認めるに足りないし、仮に認めるに足りるとしても、右委託血工契約に基く原告の支払総額は、後記認定のとおり決定していなかつたのであるから(右金員の交付をもつて製品の所有権が原告に属する旨の供述は、そのままとることはできない。)を認めるに難くない。
しかしながら、他方右各証拠によると、右委託の際、原告が訴外会社に支払う代金額は製品の完成後両者の話合いによつて決定するとの合意があつたこと、ところがその後製品の原価が予期以上に高かつたため(原告において製品の引取を拒絶したところ、訴外会社はあくまで引取を希望するので、原告が右製品を第三者に売却した結果によつて代金額を決定することになつたこと、その後訴外会社は、右約束に基き、製品の一部を原告の大阪支社え出庫していることが認められ、この認定事実によると、右委託加工契約は、その代金額を製品完成後両者の話合いによつて定めることから、原告が製品を第三者に売却した結果によつて定めることに変更した時をもつて解除されたこと(即ち、当時原告において右製品を確実に第三者に売却できる見通しがあつたことについては、全証拠によるも認めることができないから、その不確実な見通しに立つ代金額の決定方法は、結局確定することのできない方法と云わなければならず、右委託加工契約は、消滅すると認めるのが相当だからである。)従つて原告において製品を第三者に売却した結果によつて代金額を決定するとの約束は、右解除に基く損害の賠償額決定方法を定めたものと認めるべきである。
そうすると、右各物件が原告の所有に属するとするためには、右委託加工契約が解除された後原告になんらかの取得原因がなければならない筈であるのに、この点についての主張立証はないから、右各物件の所有権は原告に属するとの主張は、理由がないと云わなければならない。
(ほ)、二の物件について、
右物件につき原告は、昭和三十二年五月十五日委託加工契約を締結し、その所有権を取得したと主張するが、これを認めることのできる確証はない。
もつとも前記甲第三号証によると、訴外会社の製品在庫帳中訴外会社口座から原告口座に同年六月十三日右物件と同一種類で同一数量である苺ジヤム五号四打入三百四十四ケースが移記されて居り、前記証人片山は、右苺ジヤムが右物件であると供述するのであるが、他方右甲第三号証によると、右移記は、訴外会社が七百ケースの注文をうけ、その一部として振替えるためになされたことが認められるのに、前記甲第二号証である原告の買掛金勘定帳には、当時訴外会社との間に苺ジヤム七百ケースについてなんらかの契約があつたことについては記載がないから、たとえ右移記した物件が右物件であるとしても、正当な原因に基き移記されたものとは認められないし、又、前記証人祝は、右物件は、原告の買掛金勘定帳中同年七月十二日苺ジヤム五百四十四ケース、その仕入金額百九十五万八千四百円なる記載があり、原告が右記載の原因となつた契約によつて取得した物件の一部であると供述し、前記甲第二号証には、その旨の記載はあるが、右甲第三号証には、それに対応する記載はないから、たとえ原告が甲第二号証中右記載の原因となつた契約によつて苺ジヤム五百四十四ケースを取得したとしても、右物件がその一部であると認めることはできない。
(へ)、十一の物件について、
前記甲第三号証及び証人片山の証言によると、右物件は、原告主張の日時頃訴外会社が原告の委託に基き、製造した製品であることを認めるに難くない。
しかしながら原告は、右製品の材料全部を訴外会社に提供したことを認めることのできる証拠はなく、かえつて前記証人村田の証言によると、砂糖を提供しただけであることが認められるのであるから、右製品の所有権は、原始的に訴外会社に属するものであることが明らかであるのに、本件仮差押の日以前に訴外会社が原告に対し、右製品を引渡し、その所有権を移記したことについては、認めることのできる確証はない。
(と)、七、八、十二、十五の物件について
前記甲第二、第三号証、証人祝及び片山の各証言によると、右物件のうち七は、原告がその主張の日時頃訴外会社にイワシカレー煮携帯罐四打入一万ケースの加工を委託し、訴外会社がそれに基き製造した製品の一部であること、同八は同じくその主張の日時頃牛肉野菜煮携帯罐四打入二千ケースの加工を委託し、訴外会社がそれに基き製造した製品の一部であること、同十二は、同じくその主張の日時頃マーマレード五号四打入千ケースの加工を委託し、訴外会社がそれに基き製造した製品の一部であること、同十五は、同じくその主張の日時頃お多福豆七号罐四打入三百七十ケースの加工を委託し、訴外会社がそれに基き製造した製品の一部であることを認めるに難くない。そして右各委託加工契約において、原告が材料を提供したことを認めることのできる証拠はないから、右契約に基き製造した製品の所有権は、原始的に訴外会社に属するものと云わなければならない。
原告は、右物件のうち七については同年五月三十一日、同八については同年四月三十日、同十二については同年同月二十日、同十五については同三十一年十一月二十九日それぞれ引渡を受け、その所有権を取得したと主張するのであるが、右主張の日における右各委託加工契約に基き製造した製品の訴外会社の製品在庫帳における在庫数は、前記甲第三号証によると、イワシカレー煮携帯罐四打入は二千八百九十七ケースであり、牛肉野菜煮携帯罐四打入は千四百八十七ケースであり、マーマレード五号四打入は八百二十五ケースであり、お多福豆七号罐四打入は二百六十八ケースであることが認められ、右各物件についてのみ特に引渡を受けたことを認めることのできる確証はないし、たとえ右主張は、右在庫数全部について引渡を受けたものであるとするも、その主張を認めることのできる確証はない。或いは原告は前記甲第二号証によると、右認定のイワシカレー煮携帯罐の委託加工契約に対しては、同三十二年五月三十一日をもつて、牛肉野菜煮携帯罐の委託加工契約に対しては、同年三月二十三日をもつて、お多福豆罐詰の委託加工契約に対しては、同三十一年十一月二十七日をもつてそれぞれ全支払を完了して居るところから、右引渡を受けたと主張する日は、右完了日と同日又はその後であるので(なおマーマレードの委託加工契約に対しては、全支払を完了したのは同三十二年五月二十九日であるから、かえつて右主張の日はそれ以前となるが、右完了日とすべきところを誤つたものと善解して)、右主張の日の在庫数(なおマーマレードの右完了日における在庫数は前記甲第三号証によると六百三ケースである。)全部について原告に所有権が移転していたものであると主張するにしても、前記甲第二、第三号証によると、右イワシカレー煮携帯罐、マーマレード及びお多福豆罐詰については、訴外会社は原告から全然代金の支払を受けて居ないのに、製品の一部を出庫していることが認められるから、両者間には、代金の支払と関係なく引渡をなし所有権を移転する合意があつたと云わなければならない。そして右合意は、前記甲第三号証及び証人村田の証言によると、原告において買取の場合と同じく出荷指図書を交付し、訴外会社がそれによつて指定された場所に指定された数量を出荷することによつて(右指定された場所が原告である場合は、原告に到達することによつて)個々に成立するものと認められるから、未だ出荷指図書の交付がなく、訴外会社に在庫中の右各物件の所有権は、原告に移転していないと云わなければならない。
(ち)、十の物件について、
前記甲第二、第三号証及び証人片山の証言によると、原告は、その主張の日時頃訴外会社にオイルサーデイン角3B五十罐入の加工を委託し、右物件は、訴外会社が右委託に基き製造した製品の一部であることを認めるに難くない。そして右委託加工契約において原告が材料を提供したことを認めることのできる証拠はないから、右契約に基き製造した製品の所有権は、原始的に訴外会社に属するものと云わなければならない。
原告は、右物件は、昭和三十一年十一月三十日訴外会社から引渡を受け、その所有権を取得したと主張し、前記甲第三号証によると、訴外会社の製品在庫帳中原告口座のオイルサーデイン欄に「昭和三十一年十一月三十日五百ケース販売東京(預り)」なる記載があり、前記証人片山及び進藤は、右記載を説明して、原告から訴外会社に対し、同日右五百ケースについての代金の支払があつたので、同日原告にその所有権を移転し、引続き訴外会社において預つていることを示すものでかると供述し、且つ、右物件は右五百ケースの一部であると供述して、右各証拠は、原告の右主張にそうことができるかのようである。
しかしながら、当裁判所は、結論において右物件の所有権は原告に移転していないと認めるのであるが、その理由は次のとおりである。前記甲第二号証である原告の買掛金勘定帳によると、原告が同帳にオイルサーデイン罐の支払債務を計上して居るのは、同三十一年十月三十一日に八百七十一ケースについて百四十五万円、同年十一月三十日に五百ケースについて百四十二万五千円であつて、同じく同帳により同年同月同日迄の支払関係を見るに、同年同月六日に五百ケース代として九十万円、同年同月二十六日に五百ケースの加工賃及び空罐代として百十六万五干円をそれぞれ支払つて居ることが認められ、この認定事実によると、右支払は、右五百ケースについての支払債務が同年同月三十日に計上されて居るところから、右支払以前に既に計上されて居た八百七十一ケースについて先ず支払つたものと認めるべきであるから、右支払総額二百六万五千円から右八百七十一ケースの支払債務百四十五万円を差引くとその余は六十一万五千円だけとなり、右五百ケースについての支払債務百四十二万五千円は、同年十一月三十日には完済して居ないことになる。
一方、前記甲第三号証によると、訴外会社の製品在庫帳中原告口座オイルサーデイン欄に記載の物件は、訴外会社において同年十月二十九日から同年十一月十九日迄五百三十五ケース余りを製造し、その後は製造して居ないことが認められ、この認定事実によると、訴外会社が右五百三十五ケースを製造したのは、原告が前記買掛金勘定帳に同年十一月三十日五百ケースについての支払債務を計上する原因となつた委託加工契約に基きなしたもので(しかもこの契約が、右申第三号証、証人片山及び村田の各証言によると、原告主張の契約であることが認められる。)あると認めなければならない。そうすると、右契約に基く製品に対する支払は、原告において同年十一月三十日迄完済していないことは前記認定のとおりであるから、これを完済したとの前記片山及び進藤の各証言は、信用できないこととなり(前記甲第二号証によるも、その後において完済したことも認めることはできない。)、前記甲第三号証中「十一月三十日販売東京(預り)五百ケース」なる記載は、出荷の予定であつたところ、未だ代金の支払がないから、訴外会社においてそのまま所有権を留保している趣旨であると認めないわけにはゆかない。
そうすると右物件の所有権が原告に属するとの主張は、理由がないこと明らかである。
(り)、十三の物件について、
前記甲第三号証、証人祝、村田及び片山の各証言によると、原告は、その主張の日時頃訴外会社にかき油漬角3B五十罐入の加工を委託し、右物件は、訴外会社が右契約に基き製造した製品の一部であることを認めるに難くない。そして原告は、右契約に基き材料を提供したことについては認めることのできる確証はないから、右製品の所有権は原始的に訴外会社に属すると云わなければならない。
原告は、右物件は、同三十二年五月六日その引渡を受け、所有権を取得したと主張し、前記証人祝及び村田は、原告は右契約に基く債務を完済しており、かつ、同年四、五月頃その製品の引渡を受けていると供述し、右主張にそうようである。
しかしながら、前記甲第三号証によると、訴外会社は右委託に基き、町年三月二十六日から同年四月二十九日迄に千九百四十八ケース十九罐を製造し、その後は製造していないこと、その間訴外会社は、同年四月十一日に七百九十八ケースを第三者に出荷しているのを始め、その後三回に亘り、又、製造終了後にも同年五月六日に第三者に出荷しており、その合計は千八百九十一ケースにのぼることが認められ、この認定事実によると、右製造数と出荷数の差である同年五月六日の在庫数五十九ケース十九罐についで、同日特に占有改定により引渡を受け、その所有権を取得したとの原告主張は認めることができない。かえつて、前記甲第三号証と証人村田の証言によると、右認定の委託契約に基く製品についての所有権移転の合意は、原告から出荷指図書の交付があり、訴外会社がそれに基き指定された場所に指定された数量を出荷することによつて、個々に成立すると認められるから、未だ出荷指図書の交付がなく、訴外会社に在庫中の物件の所有権は、原告に移転していないと云わなければならない。
(三)、以上認定のとおり、別紙目録記載の物件は総べて原告に所有権が属すると認めることはできないから、その他の点を判断するまでもなく、原告の本訴請求は全部理由がないことが明らかであるので、これを棄却し、民事訴訟法第八十九条、第五百四十八条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 森本覆 麻植福雄 丹野益男)
目録<省略>